ニュースの概要
米国でソフトウェア開発職の求人が持ち直している。CNBCによると、求人掲載数は2025年2月以降で約15%増えた。同じ期間に全職種の求人は7%減っており、開発職だけが逆行した形だ。増加分の中心は経験豊富な人材で、2025年5月から2026年5月までの増加の71%をシニア職が占めた。AI関連の職種名を掲げる求人も大きく伸びている。一方で、求人の水準は新型コロナ前より27.5%低いままだ。スタンフォード大学の指標でも、生成AIの影響を受けやすい分野で若手の雇用が弱まっているとされ、回復の恩恵は世代によって大きく偏っている。
引用元: 米国のソフトウェア開発者求人が回復、AI・シニア人材に集中(CNBC)
分析・見解
回復の中身は底上げではなく選別である
数字だけを見ると明るい。開発職の求人は約15%増え、全体が7%減る中で独り勝ちに見える。ただし増加分の71%がシニア職という内訳を見ると、企業が増やしているのは人手ではなく即戦力だと分かる。
同じ求人増でも、育成の余地を残した採用と、すぐ成果を出せる人だけを狙う採用では意味が違う。今回の回復は明らかに後者に寄っている。
AI関連の職名は伸びても水準はコロナ前の7割強
AI関連の職名を持つ求人が伸びたのは、AIを組み込んだ製品や社内業務の改革を担う人を、企業が探しているからだ。ただ、全体の水準はコロナ前より27.5%低い。2020年から2022年にかけての過剰な採用が膨らませた分が、元に戻っただけとも読める。
また、職名にAIと付ければ求人が目を引くという面もある。数字の伸びが、そのまま新しい仕事の増加を意味するとは限らない。
若手が最初の一段を登れなくなる構造
新人が担ってきたのは、単純なバグの修正、テストコードの作成、小さな機能の追加だった。これらは生成AIが最も得意とする作業である。スタンフォード大学の指標が、AIの影響を受けやすい分野で若手の雇用の弱さを示しているのは、この事情と重なる。
ここに見落とされがちな視点がある。職人の世界の徒弟制度のように、新人が易しい仕事で腕を磨く場がなくなれば、数年後にシニアが育たない。いま企業が奪い合っているシニア人材は、自分たちの将来の供給源を細らせている可能性がある。つまり今回の回復は、将来の人材不足を前借りした姿でもある。
過去の技術変化と違うのは入り口が細ること
表計算ソフトが普及したとき、経理の単純作業は減った。しかし分析や助言の仕事が増え、人は新しい役割へ移れた。当時は入り口となる仕事が完全には消えなかった。今回はその入り口そのものが細る点で、性質が異なる。
これからの若手には、AIが書いたコードを点検し、設計の意図を言葉で説明できる力が、入社直後から求められるようになるだろう。育てる側にも、教え方の転換が迫られている。
ビジネスへの影響
採用計画はシニア頼みから育成込みへ組み替える
シニア人材の獲得競争は激しさを増し、賃金も上がりやすい。すべてをシニアで埋める計画は、費用の面でも持続性の面でも無理がある。AIを使いこなす若手を少人数でも採り、先輩が設計の考え方を教える枠を意図的に残すほうが、三年後の人材不足を防げる。
日本企業でも、新卒の配属先でAI任せの作業が増えるなら、研修の中身を変える必要がある。書く練習よりも、読んで直す練習に時間を割くべきだ。
求人票のAIという言葉を読み解き、自社の募集も見直す
求職者も採用側も、AIという言葉に惑わされないことが大切だ。AIそのものを開発する仕事と、AIを使って業務を変える仕事では、必要な経験がまったく違う。自社の求人では、任せたい成果を具体的に書く。例えば、問い合わせ対応の時間を半分にする、といった目標である。
評価の物差しを作った量から任せられる範囲へ
AIで量を出せる時代には、コードの行数や作業件数は評価になりにくい。要件を整理する力、品質を見抜く力、顧客に説明する力を、評価項目に加えたい。人事制度を早めに更新した会社ほど、優秀な人材に選ばれやすい。
まず今期の採用予定と現場の作業内訳を並べ、AIに任せられる作業と人が担う判断を仕分けるところから始めるとよい。その結果をもとに、若手に経験させたい仕事を意図的に確保すれば、育成の空洞化を避けられる。